某玩具メーカー 男性幼児向け定番玩具 ブランディング企画

既存ブランドの「魅せ方・見せ方・伝え方」ではなく、「何を伝えるべきか」を考えた事例

今回ご紹介する事例では、新規ではなく、既存ブランドが対象でした。ロングセラーと化した商品のブランディングですが、考えたのは、表現方法ではなく、ブランドの価値の部分。理念の再定義化をお手伝いしました。

【背景と目的】愛され続けるためのブランド再定義

今回ご紹介するのは、某玩具メーカーが長年に渡り販売しつづけている、ある男の子向けの定番玩具のブランディング案件です。こちらも詳しくは書けないのですが、すでに数十年の歴史を持つ商品で、早いと2歳くらいから遊び始めているようです。ま、このくらいの年代ではお父さんが遊んであげている、という感じのようですが。しかし、5歳くらいになると興味が戦隊ヒーロー物やテレビゲームなどに移行してしまい、ごく一部の子ども以外は「卒業」してしまうという問題点がありました。要するに、使用期間が短いので、どうしてもライフタイムバリューが小さくなるのです。

この商品の特徴は、以下の3つ。

●組み立て要素がある。

●実社会に存在するものである。

●購入者とユーザーが異なる。(親が子に買い与える)

この商品には、1つの大きな競合玩具があります。世界的な組み立て玩具のロングセラー「レゴ」です。

レゴには明確なブランドバリューが設定されており、ブレない商品展開を頑固にし続けているため、親が安心して買い与え、かつ親たち自身も楽しむという遊び方が確立しており、さらには高学年になっても遊べるという強みすらあります。


『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか 最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理』 (日本経済新聞出版)

こんな市場動向も考慮した上で、改めてロングセラー商品としてこの商品のブランド価値を定義しなおし、ブレない商品開発を実現したい。そんなご依頼を受けました。

【考え方①】魅力は何なのか?

そこで、まずは徹底的に市場を分析することに。といっても、法人化しているとはいえ実態はフリーランスに近い孤軍奮闘型のコピーライター兼プランナーが、大がかりな市場調査をすることはできません。かけられる予算も限られています。そこで、以下について徹底的に分析をすることにしました。

●レゴとのブランド価値の比較(ターゲット、ラインナップ、世界観、遊び方、子どもたちが感じるイメージ、総合的な強み、「ミッション」「ビジョン」「スピリット」といったブランド定義)

●年齢ごと/成長段階ごとのターゲットの玩具利用状況および成育の傾向(幼児向け雑誌、幼児向け玩具の対象年齢記載、育児書などを参考に作成)

●年齢ごと/成長段階ごとに提供できる、本商品の価値・楽しさ・遊び方

これらの分析結果から、本商品の最大の魅力は「社会に対する想像力を、果てしなく広げるきっかけになること」にある、と考えました(ちなみにレゴの場合は、もっと広い意味での「想像力」、そして「創造力」です)。さらに、この魅力を8項目に細分化。これらを「ブランディングに活かすべき強み」としました。一部を抜粋すると、こんな感じです(表現は変えています)。

●年齢に応じた自分なりの遊び方で、想像あそびができる。

●現実性・社会性が高い。現実世界に根ざした、リアルな魅力がある。

●ギミックなどが超現実的。本物とは違った、非現実的なおもしろさもある。

●秩序的に遊べる。

●ロングセラーなので、親世代(+祖父世代)も遊んでいる。

●他の創造系玩具よりも親子など、複数で遊びやすい。遊びを通じて子どもをほめやすい。

【考え方②】ブランディングを「売上」に貢献させるには?

レゴという強力なブランドと商品開発面で対等に戦い、売上という結果を出すためにはどんなブランディングが適しているのか…ということもこの案件では重視しました。そこで、先に挙げた「ブランディングに活かすべき強み」をベースに、基本方針を設定することに。こんな感じです(表現は変えています)。

●遊ぶ期間の5歳以上への引き延ばしや流出の食い止めを実現するのは、子どもの成長を考えると困難。遊ぶ期間内での購入回数・購入金額を増やせる商品を投入することを重視する。

●逆に、これまでの長い歴史の中で積み上げてきた「△△△」「□□□□」といったブランド資産は大切にする。

●レゴと戦う際に、「創造性」で勝負しない。本商品のブランド価値は「創造性」以外にあると考える。ほかの切り口から、子どもたちを夢中にし、かつ保護者の支持を集められることを重視する。

●年齢や成長度合いに応じた遊び方を意識した商品開発やラインナップ構成で、遊ぶ期間内での買い足しを恒例化(回数増加)させる。

【考え方③】ブランド価値を定義する

ここまでの考察をベースに、ロイヤルティ(忠誠度)、ブランド認知、知覚品質、ブランド連想、その他の価値…などのブランド価値を再整理。ブランドアイデンティティとして構築しなおしました。

●コアバリュー(中心的価値)

●ブランド属性(特性、価格帯、使用者、購入者、利用シーン)

●機能価値(遊び方)

●情緒価値(提供できる楽しさ、面白さ)

●理想顧客像(購入者、ユーザー)

●ブランドパーソナリティ(ブランドを人に喩えると…)

また、ブランドの体験価値やタッチポイント、購入動機、コミュニケーションの流れ…などもカスタマージャーニー的に整理しました。

【考え方④】最終的に、5要素に集約

ここまで掘り下げてから広げたブランドの構成要素を、最終的には以下の5つのポイントにまとめました。それぞれをどんな言葉で定義づけたかはここでは紹介しませんが、5つのポイントだけは記載しておきます。

①ブランドビジョン…目指すこと、将来必ず実現したいこと

②ブランドコンセプト…お客さまに対する約束

③コアバリュー…お客さまに提供する価値の中心となるもの

④ブランドオリジン…ブランドの原点となるもの。ロングセラー/ブランドストーリーの出発点

⑤カスタマーイメージ…ブランドをお届けしたいお客さまの姿

【最後に】で、その後は…

このようなブランド考察をベースに、クライアントの商品開発担当者が社内の視点・商品をつくる者の視点から、当社で作成した定義をアレンジした上で活用されている、とのことですが…実は、この案件を手掛けたのは4〜5年前。その後のこのブランドの展開では、かなり新しい要素が加えられています。急速に発達したIoT技術が、新たな展開を生み出したようです。ブランドもまた、生きもの。たとえロングセラーの定番ブランドであるとしても、成長して、順応して、進化する。それが正解なのだと思います。問題は、進化の仕方。定番なら、小さな、目に見えない進化だけを繰り返すべきかもしれないし、まだ産声を上げたばかりなら、どんどん進化させたほうがいいのかもしれない。進化のスピードはブランドそのものではなく、市場が決める部分が大きい。

コピーライターやデザイナーの仕事が、「何を」の領域まで広がりつつある…

ブランディングというマーケティング法が広く利用されるようになってから、ぼくたちクリエイターのすべきことが「どう伝えるか」から「何を伝えるか」の領域まで広がってきたような気がします。ぼくらの仕事は、表現であると同時に高度なマーケティング活動でもあります。言葉のセンスや文章表現力、デザイン感覚などを磨く一方で、マーケティングについてもしっかり理解しておく必要があります。どちらの領域も、不断の努力が欠かせません。ま、好きだから苦ではないのですがwww。

さて。当社では、いわゆる制作業務だけでなく、その前段階とも言うべきブランディングの「理念面・哲学面」の構築も支援しています。プロモーション施策のプランニング同様、課題が見えてこないような案件も、緻密な分析や状況整理を重ねることで課題を抽出し、基本方針の策定を導き出せるよう心がけています。こういった考え方が必要…という方、ぜひご相談ください。

※当社旧ブログより転載(一部改稿)

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